ルキウス、すまんが後の事は任せる。
まずはシングのスピルーンを集めろ、鍵が奴らに渡ってしまえばカイウスも危なくなる。
カイウスは帝国ジャトレーナに連れて行かれた筈じゃ。
侵入したいならシャルロウに居る蒼髪のお嬢さんを頼れ、わしの名を出せば協力してくれるはずじゃ。
本当は色々説明したいのじゃが、そんな時間は無いようじゃ。
シング、ルキウス、約束してくれ、強いスピリアを育てると…。
息絶え絶えで聞き取り難かったけれど、そんな遺言を残してゼクスさんは亡くなった。
頷いた僕とシングを見て満足そうに笑いながら。
僕は涙を流したけれど、シングは無表情で虚空を見詰めていた。
シングに声を掛けてゼクスさんの遺体を村まで運ぶ。
近所の人にも協力してもらってお墓を作った。
辺境の村だから住民同士の絆が強いのと、帝国信者が少ない事が幸いしたらしい。
事情と、旅に出る旨を伝えれば餞別を持たせ、快く送り出してくれる。
こうして僕らは旅立つ事になった。
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シーブルから少し南の土地、キュノス。
僕ら(というか僕)はそこで情報収集する事にした。
噂好きのおばさんに数日前の流れ星(シングのスピルーンの事だ)について訊いていると急に広場の方が騒がしくなった。
「あらあら、何かしら?」
おばさんは目を輝かせて行ってしまったので
僕もシングの手を引いて追い掛ける。
広場の中心にはどこか懐かしい面影があった。
「女の子をそんなふうに脅すなんて、ホントに最っ低!」
黒髪の綺麗な女の子が何となく見覚えのあるソーマを構えてガラの悪い男を蹴り飛ばしていた。
男はありきたりな捨て台詞を吐いてそそくさと逃げ出す。
「まったく…ピーナッツの小さい男よね。」
周囲から歓声が湧き上がってそれはやがて散り散りになる。
女の子が、顔を赤くしている男性に近付いて行くのが見えた。
「コ、ハク…ヒスイ…」
「え?」
手を引かれたままのシングもそちらに歩き出した。
必然的に僕も引かれる事になる。
「…シング?ルキウス?」
こっちに気付いた女の子が僕らの名を呼んだ。
そのままシングに抱き付く。
「久しぶりだねっ!」
「…あの………?」
僕の頭に大きな手が乗った。
見上げれば先ほどまで赤面していた男性。
「シングとは連絡取り合ってたんだがな。流石にお前は覚えてねぇか。ガキの頃、近所に住んでたハーツだ。ヒスイ・ハーツとコハク・ハーツ。」
ぼんやりと、幼い頃の記憶が戻ってくる。
小さい頃よく遊んで貰った、黒髪の兄妹。ある春の日、どこか遠くに引っ越してしまった…。
「…シング?どうしたの?」
「そういやカイウスも居ねぇな?」
シングの異変に気付いたコハクは肩を揺すり、
ヒスイは辺りをキョロキョロと窺う。
…大丈夫、この二人なら信頼できる。
幼き日の僕がそう言った。
二人に向き直って重い口を開く。
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お互いの状況について話し合った。
広場で話す事でもないから予約をした宿屋で。
コハクとヒスイは僕達に久々に会いに来るところだったらしい。
シングがいつも手紙に写真を添えていたから僕達の事がわかったそうだ。
数日前起きた事と旅の目的を話したら二人は量りきれない程のショックを受けていた。
何度も冗談じゃないのかと問われた。
…当たり前だ、その場にいた僕だって、未だに夢じゃないのかと頬を抓るのだから。
でもシングの目が虚ろなのは事実だし、シーブルに戻っても兄さんは居ない。それどころかゼクスさんは土の下で眠っているのだ。
紛れもない事実。残酷な…。
「…カイウスが浚われた理由だが、ハーフだからじゃねぇのか?」
ヒスイの言葉に少し目を見開いた。
そして遠い昔、二人の前で兄さんが獣化していた事を思い出す。
確か、街道近くで遊んでいた僕達五人が魔物に襲われた時。
「もしハーフが理由なら僕も一緒に連れ去られているはずだよ。クリードは僕らが兄弟だと知っていた。
それに、ハッキリ言ったんだ、"用があるのは兄の方だ"って。血が薄くて獣化できないからって理由だけで放っておくほど優しそうにも見えないし。」
「そうか…。」
「…ねぇ、ルキウス。」
それまで静かだったコハクが意志の強い眼差しを向けてきた。
何、と軽く訊ねる。
「私達も、ついて行っちゃダメ?」
「…コハク、本気で言ってるの?僕らは帝国を敵に回しているんだよ?」
「分かってるよ。でも…私はシングとカイウスを救いたい!それに、私達は元々みんなに会いに来たんだもん。ソーマ使いだし、足手まといにはならないと思うよ?ね、お兄ちゃん!」
「ああ。ジイさんにも世話んなったしな。…ったく、帝国騎士団め、俺の幼なじみに手ぇ出しやがって…ぶっ潰してやるぞ、コハク、ルキウス!」
「うん!」
「…ありがとう。」
二人に逢えて良かった。
…?
刹那シングが笑った気がしたけれど、本当に一瞬だったのできっと勘違いだろう。
四人に増えたパーティーは南の方に流星が落ちたという情報を得た。
向かうは商業の街、ヘンゼラ。
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「ところでコハクは広場で何してたの?」
「ん?あれは…お兄ちゃんと歩いてたらカツアゲされたの。だから殺劇舞荒拳食らわせちゃった。」
「………。」
「ルキウス、コハクには逆らわねぇ方が良いぞ。殺劇舞荒拳だって通信教育で十日で習得したんだ。」
「お兄ちゃん?それは秘密だって言ったでしょ?」
「コっ、コハク…?なんか後ろに別の物が…」
「…鳳凰天駆!」
「ウギャァァァァァァァァ!!」
「コハク…強、い…。」
「……………。」
その日僕は修羅を見た。
NEXT.
兄ちゃんへの攻撃が鳳凰天駆で済んだのはコハクの愛。
技の漢字とルキウスの口調、合ってる自信が無い^^
シングが空気だ…。
次はテンペキャラのターン!