厚い雲。


太陽を隠して
空気を湿らせるそれは

君の心すらをも隠す。










辺りは薄暗かった。

とは言っても、今は夜ではないし、夜のように真っ暗な訳でも無い。


曇り空。
今にも泣き出しそうな空。
太陽は隠れて見えないのに
それでも十分な光は届けてくれる不思議な空。

何故だか急に泣きたくなるような、
そんな空。



「ねぇ、モルモ。」



僕は隣を飛ぶディセンダーに話し掛けた。



「どうしたの、リスト?」

「シィ…シーガル、どうしたのかな…?」

「シーガル?どうしてさ?」

「うん…最近、誘っても来てくれないし…姿すら見てない。」

「きっと長期の傭兵の仕事が入っちゃったんだよ。そう珍しい事じゃないだろ?」

「…そう、だね……。」



じゃあ、あれは嘘だったの?


己の記憶を振り返ってみる。

そこに居る彼は、確かに『お前以外のやつとはダンジョンには行かない』と…
照れくさそうに吐き捨てていた。


シィは僕が嫌いになったのだろうか。
だから、約束を裏切って、僕を避けて…姿すらも見せてはくれずに…。



「シィ…逢いたいよ……今、どこに居るの……?」



呟いた言葉はあまりにも小さい。

誰にも…自分の耳にすら届かない程に。



「…リスト?」

「え?」



不意に名前を呼ばれて振り返る。
そこには、相変わらず無表情な同じ顔。



「リスト、モルモ…。」



先程とは違い、確信して僕達の名前を呼んだのはレストだった。



「やぁレスト、久しぶりだね。」

「どうしたの、レスト?」



胸の内を知られたくなくて、努めて明るく訊く。

でも、僕は感情を隠すのが下手だから。きっと空回りしてると思う。
それでも、レストに(心配する事が出来ないとしても)心配かけたくないから。



「仕事、終わった。今、帰り。」

「そっかぁ、お疲れ様!僕はこれからなんだ!ね、モルモ!」

「そうだね。」

「…リスト、」

「ん?」

「宿屋に行け。」



思わず首を傾げた。
レストが何か命令するのも珍しいし、何故宿屋?

でも、続けて放たれた言葉に僕の思考は停止する。



「シーガル、宿屋にいる。」

「……………ぇ……、」

「怪我してる…早く、行け。」

「っ!」



怪我。

それを聴いた瞬間、僕は弾け飛ぶように宿屋に向かって走り出した。


途中でモルモを置いてきてしまった事に気付いたが、もう止まらなかった。



「リストー!?待ってよ!」

「…モルモ、」

「うわっ、何で羽根を引っ張るのさ!」

「リストに、伝言。」

「わかったから放してよ!」

「ん…」

「ふぅ…で、何て伝えればいいんだい?」

「…――、―――。」






なんか…力尽きた。