その少年は、スピリアの奥底で世界を呪っていた。
村から出して貰えない不満。
何かにつけて子供扱いされる不条理。
親が居ない現実。
…一部の者による、酷い仕打ち。
小さな負の感情が少しずつ、少しずつ、堆積していって、
何故明るい顔が出来るのか、不思議な程に少年の憎しみは心地良いものになっていった。
彼は自分の薄暗いスピリアに気付いては居ないようで、
いつも快活にしていた。
寝る前の数分間、静かに枕を濡らす事が日課になっていようなど、
彼に一番近い存在であるゼクスでさえ、感づいてすらいないようだった。
封印されている筈の私がこうして外の様子を探る事が出来るのも、この深い憎しみのお陰なのだ。
周りをも照らす明るさと、すべてを呑み込む暗さ。
そんな対照的な強い感情を持ち合わせたスピリアに、ゼロムが惹かれない筈がない。
ある日、不意を打たれた器はいとも容易くデスピル病にかかった。
それも、寄生したのは普通のゼロムではない。
原界人を千人使った、進化型ゼロム…。
そんなヤツに好かれるくらい、この闇は深いのだ。
ゼロムは私の宿っている『憎しみ』意外のスピリアを食べ始めた。
ゼロムがこのまま蝕み続ければ私は少年の解放を待つ事無く計画を進める事が出来るだろう。少年は強い感情を持って猶暴走を押し留めているのだから、それはとても喜ばしい事だ。
喜ばしい…筈なのに、なんだこの虚無感は。
私は、この少年が感情を失う事を、拒否している…?
一人悶々としていた私は、ふと少年の自称『仲間』達がスピルリンクした事に気付く。
ああ、忌まわしい。このまま消し去ってやりたい、とは思うが私はまだ覚醒しきってはいない。リチアや機械人に知られたら面倒だ。
そう結論付け、憎しみのスピルーンの奥深くに潜り込む。機械人のセンサーすら届かない所に。
「だ、れ…?」
潜り込んだ場所で、声がした。
振り向くと、いつも鏡を通して見てる顔。
年相応な顔をしている癖に、彼のその瞳に宿した光だけはまだ十にも満たない子供。その光は、此処では暗い鈍色をしている。
ああ、そうか。急速に理解する。
彼は深い憎しみを持っているにも関わらず、それに気付かず、封じ込め、それ以上の明るさで蓋をしている。
そんな彼の事。きっと憎しみだけになってしまえばその意地だけでその感情を押さえ込もうとするのだろう。相当彼の癇に障る事でもない限り。
だから、憎しみすらも感じられない、こんな目になってしまうのだ。
…こいつは、彼の憎しみのスピリアの塊、スピルーンの最も純粋な部分だ。
「…だ…れ……?なんで…ここ、に…?」
「…私は、お前が生まれる前から此処にいる。」
「俺が、生まれる…前から…?」
「ああ。此処まで深くには来た事が無かったからな。初めて逢うが。」
「…?」
「わからないままでも支障は無い。どの道、少なくとも今は危害を加える気は無いからな。」
わかったのか、わかっていないのか…ただ彼は頷いた。
クリシン書きたかったんだけどな・・・。