グース。

コハク達にはお風呂に入るように言って、俺とヒスイとクンツァイトは郷内を散策する事にした。



「この先は男のロマンだ!」



そう声高々に叫ぶ少年に出逢い、ヒスイは頬を赤らめている。



「…なんの事かよく分かんないけど、俺は待ってるよ。ヒスイ、クンツァイト、行ってらっしゃい。」

「なんだよ、ノリ悪ぃな。」

「だって"男"のロマンなら、俺は入れないだろ?」

「はぁ?」


首を傾げながらヒスイ達は奥を目指して行った。

俺は…どうすればいいんだろう。温泉玉藻でも食べてようかな。
…でも、温泉にも入ってみたいなぁ。



「番台さんに相談してみよ…。」



そう呟いて、今頃コハク達が入っているだろう温泉へと向かった。



「番台さん…温泉、入ってみたいんだけど、どうすればいいのかな?」

「入ればいいじゃないか。お金は貰ってるから留めはしないよ。」

「だって、前に女湯開けたらケダモノって言われたよ?」

「そりゃアンタが男だからだろう?」

「…俺、一応女なんだけど。」



服の前を開ければ「あらやだ、そいつぁ悪かったね。」と謝られた。

やっぱりどう見ても男…なのかなぁ。
落ち込みながらチャックや金具を留めたら、番台さんのシワシワな暖かい手が頭に乗った。
…ジィちゃん、みたいだ。



「それなら堂々と女湯入ってくればいいよ。誰も文句なんざ言いはしないさ。」

「…うん!ありがと、番台さん!」



何となく嬉しくなって、お礼を言ってからお風呂場に飛び込んだ。

コハクもイネスもベリルも、まだ脱いでいる所みたいだった。別れてから大分経ってる。何かしてたのかな。
コハクが頬を染めてイネスの後ろに隠れ、ベリルはギャアと悲鳴を上げた。



「ななななななっ、なにしに来たんだよ、このケダモノ!」



いつもなら傷付くベリルの男に間違えた言葉も、今なら笑う事が出来る。
イネスだけは冷静で、静かにベリルの肩に手を置いていた。



「待ってベリル。男が女湯に入ろうとすれば番台さんが追っ払ってくれる筈よ。」

「へ?…どーゆーこと?」

「さぁ?それは本人から説明してくれるかしら?」



イネスの表情を見れば、もう分かっているらしい。
「こういう事だよ。」クスッと笑いを漏らしながら、先程と同じように服を脱いだ。
ベリルはポカンとしている。



「………うえぇぇぇぇぇぇ!?シング女だったの!?どうして隠してたのさ!?」

「それはお風呂の中でも聴けるでしょ?いつまでもこの格好だと風邪引くわよ?」



イネスの言葉でみんなは脱衣を再開した。タオルを持ってお風呂の方へと向かった。

タオルを首から掛けていたら「シング、共同銭湯ではこうやって前を隠すものよ。」と言われたので真似をしてみる。
その後も「掛け湯」とか「タオルを浸してはいけない」だとか、温泉のマナーを学んだ。
イネスって何でも知ってるなぁ。すごく頼りになるよ。



「…で、何で隠してたの?」



お湯に使って溜まった疲れと共に息を吐き出した途端、ベリルの尋問が始まった。

俺は苦笑いをしてそれに答える。



「別に隠してた訳じゃないよ。言う必要が無かっただけ。普段はみんな一人ずつシャワーだろ?だから性別気にする事なんて無いし…だいたい可笑しいでしょ?自分からわざわざ"女です"って言うのも。みんな男って決めつけてたみたいで、訊かれる事も無かったしさ。」

「でもっ、トイレは男の方入ってたよね?」

「あれは…旅を始めた頃、女の方入ったら他の人に叫ばれて変態扱いされたからだよ。ヒスイにも殴られたし、トイレの形が一緒ならわざわざ嫌な思いする女子トイレ入る必要も無いかなって。」

「…そうなんだ。」






巷で流行のにょたシングをやろうとして挫折。