星の良く見える日。
草原に張ったテントの中で仲間達は寝ている。
一本だけ立った丈夫な木に背中を任せている俺は魔物避けの火の番で、
パチパチと爆ぜる火の粉を見ながら心地良い微風を感じていた。

先程よりも若干勢いの衰えた火中に枯れ木を投げ入れる。
パチン。一際大きな音が鳴った。

ふと、何かが擦れるような音に顔を上げる。
テントからマントを羽織ったカイウスが顔を出していた。



「そろそろ交代だろ?」



そう言われて月の傾きを見る。
いつもの交代の時間よりも、高い。



「いや、まだだ。もう少し寝ててもいいぞ?」

「…代わるよ。ティルキス、今日派手に攻撃食らってただろ。寝た方が疲れとれるぜ。」



俺の止める声も聞かず、テントから這い出る。
肌寒い風が吹いたから、溜め息を吐いてとりあえず手招きをした。

近くに寄ってきて焚き火の灯りに照らされたカイウスの顔を見て、顔をしかめる。



「どうしたんだ?怖い顔して。」

「…カイウス、お前、寝てないだろ。」



図星らしい。肩が大袈裟に跳ねた。
ギクリという擬態音が聞こえた気がする。



「な、んで…」

「目が腫れている。泣いていたのか?」

「ち、違っ…」

「違うのか?」

「………ああ…。」

「なら何故お前の手袋の甲、濡れてんだよ?」

「これは…」



手の甲を押さえ、言葉に詰まったカイウスは、暫く考えていたが、
やがて諦めたように溜め息を吐いた。



「…随分と目敏いんだな。」

「元々そういう質なんだ。ま、物事を見抜く力の無いヤツとお人好しなヤツは貴族社会じゃ利用されて終わりだしな。」

「嫌な社会…。じゃあティルキスは利用される側か?」

「俺は利用しないし、されないぞ。」

「矛盾してる。ティルキスはお人好しだろ?」

「…まぁ、否定は出来ないかな。」



くしゅっ。
可愛い嚔に小さく吹き出し、赤くなったカイウスの手を引いて、向かい合わせに閉じ込めた。

離せと抵抗するが、そのまま力を強くすればやがておとなしくなる。
俺の肩に顎を乗せて脱力した。



「…なぁ。」

「なんだよ…」

「なんで、泣いていたんだ?」

「………。」

「…父親のこと、か?」



再度、小さく跳ねた肩。
多少癖の付いた細く綺麗なライトブラウンの髪を、出来るだけ優しく撫でた。



「無理にとは言わないが、話してくれないか?」



優しい微風を肌に受け、珍しく素直に頷いたカイウスの顔は見えなかった。



「別に大した事じゃないんだ…。すっげー情けないけど、なんとなく寂しくなっただけ。」

「誰にでもそういう時はある。情けなくなんてないさ。」

「…眠れない時はさ、額にキスして子守歌なんて歌ってくれたんだぜ?顔にも性格にも似合わない事を、恥ずかしげもなくさー。
子供扱いするなって怒るんだけど…結局、安心して眠っちゃうんだよな。」

「俺が代わりにやろうか?」

「何言ってんだよ…。」



カイウスの、剣を握るにはまだ幼すぎる指が、俺の長髪を緩く絡め取った。

震えるそれは、一体どんな感情からだろう。



「バカみたいだよな、俺…。自分で殺しといてさ…。」

「カイ、ウス…。」

「そんな事、考えてたらさ…いつの間にか、泣いてたんだ…。」



肩口伝わった濡れる感覚。
嗚咽は抑えているらしく、鼻を啜る音だけが暗闇に響いた。



「カイウス、顔を上げろ。」

「…やだよっ、」

「いいから…な?」

「…う、」



今日のカイウスはとことん素直だ。
ゆっくりと、俺と目を合わせるように動くカイウスの目はやはり塗れていて、赤色は僅かながら濃くなっていた。

肌理の細かい肌、
その十五の男にしたら柔らかい頬に
リップ音を立てながら唇を落とした。
大きな目を更に見開いてそのまま固まり、ぱちぱち瞬き数回。



「…な、ななっ」

「俺はラムラスさんの代わりにはならないし、なれない。お前も嫌だろうしな。」

「………ティル、キ、ス…っ」

「だから、俺は俺なりのやり方でお前を寝かしつけてやるよ。」



真っ赤な頬にもう一度キス。
目元にもキスをして、クリスタルのような涙をそっと拭ってやった。

悲しみも寂しさも後悔も、カイウスを苦しめる全ての気持ちを、この涙と共に吸い込めたらいいのに。



「何かリクエスト、あるか?」

「でもっ」

「カイウス…お願いだから、甘えてくれよ…。」

「………じゃあ、センシビアの子守歌…とか…」

「お安いご用だ!」



ゆったりとしたリズムで軽く背中を叩きながらカイウスの耳元で静かに歌う。

最後に歌ったのは何年も前で、
久しぶりだと意外と忘れているもの。
所々誤魔化したが、カイウスは眠くなってきたのか、つっこまれはしなかった。

何順か目で、心地良い体重が掛かった。
カイウス、と小さく呼ぶが、返ってくるのは寝息だけ。

溜め息と微笑みを同時に漏らし、
薪を三本ほど投げ入れ、
マントでカイウスごと体を包んだ。

空を見上げる。
太陽の光を受けて輝く星々は懸命に命を燃やしていた。



「…おやすみ。」



呟いた途端に睡魔が襲ってきて、
いかんと思いつつも逆らえずに瞼を下ろした。





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「おはよー…あれ、お兄様が居ないわ。」

「おはよう、ルビア。ティルキスなら外で寝てるわよ。」

「外?どうして…」

「見ればわかるわ。」

「?…お姉様、なんか楽しそう………あ。」

「ね?」

「カイウスの安心しきった顔…久々に見たわ…。」

「センシビアにいる頃からだが、特に旅に出てからは息吐く暇もなかったからな…私も、ティルキス様のこの様な安らかな御顔は久しぶりだ。」

「フォレストさん。」

「…もう少し、寝かせてあげましょうか。」

「…そうね。珍しいものも見れたしね!」

「二人とも…。」

「いいじゃないのよ、フォレストさん。」

「…そうだな。だが、私が調理を終えるまでだぞ。」

「はーい。難易度の高い料理、作ってね!」

「まったく…」

「ふふっ…私からも、お願いね。」



だって、どんな夢を見ているのか気になるほど、
幸せそうな顔をしているんだもの。

目を覚ましたカイウスは、真っ赤な顔をしていた。




end.

考えていないと言っていたティルカイ。
でも一回お試しで書いてみようかな、と思ったら…割と、アリかもしれない…。
お化けとかしりとりのネタも書いてみたいな…。
ところで若干アンソロの影響を受けている気がするのは気のせいじゃないと思います。
王子が黒い手袋が濡れてる事に気付いた辺り変態くさくなってしまった。
すみません。

テンペってただでさえ少ないのに殆どノーマルで、
ばらがあったとしても99%がカイウス攻め(カイルキとカイティル…森王子サイトさんもあったかな)な辺りもどかしいです、すごく。
リメイクしてキチンと作り直せばカイウス受けサイトさんも増えると思うので、バ●ナ●さんお願いします、マジで。

それにしてもキャラ掴めてない。
カイウス・ルビアは…微妙だけどまぁマシな方として(というか、もしかしたらイマイチ書き分け出来てないシング・コハクよりもマシかもしれない)
後の三人ホントわかんない。
そんな状態でリクシェア(ルキウス・ロミー)書いてますからね。
後々、アルバートや王様も出す予定ですからね。
これなんて自虐。