ちょっとした用事でフラノールに立ち寄ると、あっという間に外は猛吹雪。仕方がないので一泊する事になった。

俺は雪が嫌いだ。
なのに外は吹雪で遊びに
行ける訳もなく(まぁ、尤もこの町には大して遊び場と言えるような所など無いに等しいのだが。)、
枕にうつ伏せても轟々と窓を叩き付ける音にソレを連想してしまう。
これはもう、一種の拷問だ。



「ゼロス・・・?大丈夫か?」

「へ?」



いきなり掛けられた声に驚いて顔をあげる。そこにいたのは心配そうな顔をしたロイド。
そういえば、同室だったか。
自分のことに精一杯で、異常と言ってもいい程、程周りに気など回りはしなかった。



「何がよ?」



ロイドはあれでいて鋭い。
たとえ不自然だったとしても、俺は自然を装う。周りに自分の弱みなど見せはしない。見せられる筈も無かった。



「いや、魘されてた気がしたから・・・。何も無いならいいんだ。」



そう言ったきり、先程まで弄っていたらしい小物作りを再開させた。
天然の範疇なのか、ただ単に気づいていないのか。はたまた気づいた上で放っておいてくれる優しさなのか。
何にせよ、ロイドは入ってきて欲しくない所には絶対に入ってこない。
逆に、意地を張って、聞いて欲しいのに突っ撥ねてしまう時は何が何でも聞き出すという依怙地な態度だった。きっとロイドは人の気持ちを読み取る天才なのだろう。この少年の、こういう所は好きだ。

はぁ、と息をひとつ吐くと、その少年の手元を見る。しかし作業をしている手で隠れてしまい何をやっているのかすら定かではなかった。



「ロイド君?何やってんの。」

「・・・細工・・・・・。」

「そうじゃなくて・・・。何作ってんの?」

「・・・・・秘密。」



余りにも真剣に作っている為(今日は珍しく受け答えしてくれた。)、これ以上邪魔するのも悪いと思い、そのままベッドに寝転がった。

相変わらず、窓がカタカタと煩い。そこに打つかって透明な液体と化した忌々しいそれを目の端に認め、顔を顰めると布団を被る。まだ寝る気にはならなかったがそれを見ているよりはずっといい。










「ん・・・?」



僅かな寒気で目を覚ます。いつの間に眠ってしまったのであろうか。辺りは一面真っ暗だった。
まだ朝は遠いらしい。そう判断して布団を掛けなおす。
ゴロリと体を横に向けると、枕元に置かれた何かが目に入った。



「・・・ペンダント・・・・・・?」



傍には何か紙切れも置いてある。何やらそこには文字が刻まれているらしい。
ベッドから抜け出すと、身を寒さに震わせながら窓際に近寄った。雪の、唯一いいところは明るいところだからだ。

そこには、ミミズの這ったような字でこうあった。



『最近、元気ないみたいだから作ってみた。不恰好だけど・・・貰ってくれ。
PS.何か悩みとかあったら相談しろよな!』



・・・まったくコイツは。明日も早いってのに、遅くまで俺さまの為にペンダント?

不恰好だなんてとんでもない。元々手先が器用なのもあるが、それを差し引いたって丁寧に思いを込めて作られたのは素人目にもよく分かった。



「お人好しっていうかなんというか。」



そう零す口元には、いつの間にか笑みが。

ロイドの布団を向き、ありがとう、と言うとベッドに戻った。


安らかに眠る俺の首元にはロイドのペンダント。





何故普段なら捨ててしまう他人からの贈り物を身につけたのか。
そして、何故ロイド君が俺の為に徹夜覚悟で細工を作ってくれたのか。

この時の俺は、考える事すらなかった。





吹雪はいつの間にか深々と積もる優しい雪へと姿を変えていた。

芽生え始めた想いは熱く、降り積もる雪までもを溶かす。




end.

一年前のもの。