それは、ロイドとクラトスが親子だと発覚した、少し後の話。





「うわぁぁぁぁぁぁっ!!!」



夜中、少年は叫ぶとともに勢い良く上体を起き上がらせ、肩で息をする。
身体は小さく、けれど確実にカタカタと震えていて、思わず手のひらを逆の二の腕に持っていき、自分を抱き締めた。



「ハニー…?」



声のせいで起きたのか、元々眠りが浅いのか。恐らくどちらも正解であろう同室の青年は心配そうに少年に声を掛ける。

掛けられた声に一瞬酷く怯えたようで肩をピクリと跳ねさせたが、その正体に築けば声と表情に安堵の色を滲ませた。



「ゼロスっ…」

「…どしたの、ロイド君。」



珍しくも縋りついてきた少年の背を、普段とは打って変わって優しく撫でる。
少年が少しでも落ち着くように、声を掛けながら、優しく、優しく。

やがて上げた目元は少しばかり潤んでいたので青年がそこに柔らかく口付けをすれば
漸く頬を少しばかり染めながらくすぐったいと笑みが零れた。


少年は落ち着いたようだが放ってはおけず、そのまま布団に潜り込むと自分より小柄な体を抱き締めた。



「ゼッ、ゼロス!?」



慌てて押し返そうとするが、キツく抱き締めている腕はびくともせず無駄な抵抗に終わる。
諦めた少年は溜め息を吐きつつ青年の背に手を回し、服をギュッと握った。それでもその顔に浮かんでいるのは幸せそうな微笑みなのだが。



「んで?さっきはどうしたんだ、ロイド君。」

「…別に、大したことじゃないよ。」



大したことじゃない、と言いつつも、肩は跳ね、顔は辛そうに歪んでいる。
青年は息を吐き、しょうがないという風に肩を竦めた。



「ロイド君が言いたくないなら無理に訊こうとはしねぇけどよ、
辛かったり、苦しいかったりすることは言った方が楽だぜ?」

「…………、」



苦い顔をしていた少年は、やがて青年の言葉に決心したように、
躊躇いがちだがぽつりぽつりと呟き始めた。



「……夢。」

「夢?怖い夢でも見たの。」

「ああ…」



そこで一旦区切ると、俯いてシーツをギュッと握りしめ。



「俺は…居てはいけない命だ、って。」

「なっ…」

「誰が言ったのかは解らなかった。夢の中の事だから、気にしちゃいけない、とは思うんだけど…。」



居てはいけない、という意味を説明する声は震え、体もまた揺れだす。



「俺は、現代を生きてた母さんと、クラトス…四千年も前の人との子供だから…
有り得ない、あってはいけない命、だって…夢で、言われ、て…
なぁ、俺、生きてていいのか?生きてちゃ…ダメ、なのかなぁッ…!?」



涙声混じりに青年の服の裾を摘み、必死に問い掛けた。
青年はそっとその手を取ると、濡れた瞳を真摯に見つめた。



「そんなの、ハニーがよくわかってるでしょ?いつも言ってるじゃん。例え誰の子供だったとしても、ロイド君はロイド君だ。
それに…俺は、ロイド君に出会えて感謝してる。俺様に生きる意味をくれたのはロイド君だからな。少なくとも俺様は生きてちゃいけない、なんて絶対に思わねぇ。」



それじゃ駄目か?

青年の告白に、少年は目を丸くすると、そのまま俯いて雫を滴らせた。
それには青年も流石に慌てたようで狼狽える様子に、少年は今度はクスクスと笑う。

青年は訳が分からないと間の抜けた表情をしたが、少年の笑いは更に濃くなる一方だった。



「ごめんっ…その、可笑しくって…っ!
それと………嬉しくって…。」



言葉の後半の照れた顔に、笑われた事に対する僅かな怒りは彼方に吹き飛んで、
変わりに湧いた愛しさに任せて再度思い切り抱き付いた。



「ゼロス、ありがとう。俺、自分でいつも言ってること忘れてた。
そうだよな…俺は俺、なんだよな…。」

「そーそー。誰が親だって、ロイド君がおばかな事には変わりなくって、」

「茶化すなよ!」

「俺様の一番愛しくて、一番大切な人って事にも変わりないの。」

「……ばか」



さらりと言った言葉に耳まで真っ赤に染めた少年は青年の肩に押し付けるようにして顔を埋めた。

しかし、やがてどちらからともなく笑いが漏れ、
それが落ち着く頃には寝ようという話になり、同じ布団で漸く二度目の眠りにつく。




優しく、強く抱きしめ合った恋人達は、
この腕の中にある存在を必ず守り抜こうと心に固く誓ったのであった。










君こそが、僕の生きる意味。




end.

自分、ロイド泣かすの好きだなー。
これも一年前・・・あまりにも酷過ぎる文ですね・・・。