「ヒスイ!」



キャンプポイントの近くにある川で朝飯を作っていた俺は
未だ寝ぼけ眼でボーっとしているヒスイを呼んだ。

虚ろな瞳のまま一度此方を見据え、どこかフラフラと覚束ない足取りでゆっくり向かってくる。
薪と石で作られた即席のコンロにかけた鍋をお玉で混ぜながら
そんなヒスイに眉を顰めた。



「ヒスイ、大丈夫?」

「んー…あぁ…。」



近くまで来た彼に声をかければ生返事が返ってくる。
本当かと疑ったが、「用事はなんだ」と訊かれたので口には出さなかった。



「お味噌汁の味見をしてほしいんだ。具はワカメとお豆腐だよ。」



小鉢に少しだけ掬って渡すと数回息を掛けて傾ける。
コクリ、小さく嚥下する喉をドキドキと胸を高鳴らせながら見詰めた。



「ど、どうかな…?」

「美味ぇ。」

「ホント!?」



嬉しくて笑顔を向けると、ヒスイも似合わない微笑みを返してくれた。
その表情にまた心臓が煩くなる。
顔が熱くなってきて下を向いたけど、頬に手を添えて上向きに戻されてしまった。

ヒスイの整った顔がゆっくりと近付いてくる。
十センチ程離れたところでそれは止まった。



「お前の作った物ならなんでも美味いぜ。」

「ヒスっ…ん…」



唇を唇で塞がれて、名前は呼べなかった。
目を閉じて口付けを甘受する。
それは触れるだけの、しかしとても長いキスだった。

漸く離れた頃にはお互い茹で蛸。
なんだか可笑しくなって、どちらからともなく吹き出すと、
額をコツンと重ね合わせた。


何気ない朝が、こんなにも幸せ。




END.





おまけ。


「…ねぇコハク、ヒスイって低血圧だったっけ?」

「ううん。お兄ちゃん、寝起きはいい方だよ。」

「じゃあ低血圧のふりしてるのって、」

「素でやるのが恥ずかしいからじゃないかな?」

「ならやんなきゃいいのに。見てるこっちが恥ずかしいんだよ!ていうかあいつら完璧に僕たちの存在忘れてるだろ!」



その日の朝食は、一部の人には
まるで山盛りの砂糖でも入れたのではないかという程甘く感じられたらしい。




おわり。

相互記念で玄様に捧げます。
ヒスシン甘々との事でしたが…キャラが似非すぎますね…すみません;;
こんなのでよろしければ煮るなり焼くなりしてください!返品受け付けます!
では、改めてこれからもよろしくお願いしますね^^