次の街まで後少しという所で、シングの体がぐらりと揺らいだ。



「シング!!」





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倒れたシングを背負って着いた街の宿屋。
その一室で俺は少年の看病をしていた。

未だ目を覚まさないその顔は熱があるのにも関わらず心無しか蒼く見え、時折魘されたような声も漏れる。
まだ日が高い為、仲間達は皆心配そうにしながらも買い出しに行っていた。
だから俺は一人少年の目覚めを待つ。
額に乗せた濡れタオルが熱を奪う度に替えながら。

原因は体の疲労もあるが、もっと主なのはスピリアへの負担らしい。
確かにここ最近の出来事はコイツにとったらショックな事ばかりだっただろう。
それにしても、倒れるまで黙ってたコイツもコイツだが、
全く気付けなかった俺も俺だ。
小さく息を吐くと、不意に彼の意外に長い睫が震えた。



「うぅん…、あ…?ここ、は…?」

「やっと起きたか。」



虚ろな瞳をした顔を覗き込む。
必死に焦点を合わせようとしているらしいが、熱がある上に寝起きな事も手伝って上手くいかない。



「俺、なんで…」

「過労で倒れやがったんだよ。お陰で俺がここまで運ぶハメになった。」



心にもない物言いで伝えれば
申し訳なさそうに眉根が寄った。

なんて顔してんだ。軽くポンポンと頭を叩けば小さく唇が動く。



「…また、迷惑掛けちゃったんだ………。…ごめんなさい。」



なんだか今にも壊れそうで、急に不安になった。

シングの寝ているベッドに乗り上げ、
剣型のソーマを振るう男としては随分と華奢な体を腕の中に閉じ込める。
跳ねた肩には気付かないふりをして。



「ヒスイ…?」

「テメェは大馬鹿だな。」

「何っ、」

「迷惑に思うどころか心配するヤツしかいねぇって、まだ解んねぇのか?」



少しだけ体を離せばポカンと間抜け面をしていたから笑ってやった。



「自分の事に対してだけ鈍感なんだな、お前は。
自分がどんなに大切にされているかを知れ。俺達をもっと頼れ。お前一人支えられないくらいヤワなヤツは、俺達の中にはいねぇぞ。」



恐る恐る、肉刺と傷だらけの細い指が俺の服を引っ張った。



「…俺、は…甘えていいの?」

「誰に訊いてんだ、当たり前だろうが。」



首に小さく震えた腕を回される。

必死に必死に放しなどしまいとしがみつく腕の強さに不安の大きさを知った。
身体同様、震える声が言葉を紡ぐ。



「ヒスイ…俺、ね…怖かった。」

「ああ。」

「辛かった。」

「ああ。」

「正直、今も怖くて仕方ない。」

「ああ。」

「ガルデニアに…クリードに立ち向かうのも、みんなに嫌われるのも、これ以上誰かが死ぬのも…本当は全部怖い。」

「…ああ。」

「いつも見栄張ってたけど…悟られないようにしまい込んで隠してたけど…いつも、ずっと、怖くて辛くて仕方がなかったんだ…。」



肩に湿り気を感じたから後頭部に手を回して押し付けた。


俺も、ここまで追い詰めた原因の一つなんだと思うと、胸が張り裂けそうな罪悪感が止めどなく押し寄せてきたけれど、
今はただこの強そうに見えてその実とても脆い少年のスピリアに付いた傷を少しでも癒やしたいから何も言わずに抱き締める事にした。

今必要なのは下手な言い訳や謝罪じゃない。
話を聞いてやる耳と、抱き締める温かな腕だけだ。



「ヒスイ…」

「何だ?」

「ヒスイも…みんなも、ずっと傍に居てくれる、かな?もう、一人になったり…しない、かなぁ?」

「…俺はもう、お前を手放したりしねぇよ。それに、みんながお前を守るから、お前もただみんなを守ってりゃいい。
…それじゃ駄目なのか?」

「ううん…充分すぎる、よ…。」



段々と力が抜けていき、首に回った腕がシーツに落ちた。柔らかなベッドにゆっくりと沈む。

身体を起こしてシングの右手に自分の右手を絡ませた。



「眠、く…なっちゃった………。」

「ずっと手ぇ握っててやるから、安心して寝ろ。」

「うん…ありが、と…。」



音もなく深い眠りに落ちた。
空いた手で癖のついた茶髪をゆっくりと撫で、柄にもなく優しい微笑みを浮かべた。



「おやすみ、シング…。」




END.

似非兄ちゃん!似非シング!
なんか予定してたのと大分違う仕上がりになった気がするけど気にしない!(気にしろ)
時間軸は第二部全員集合後って事以外そんなに意識してないけど…ユーライオくらいかな。
ユーライオと言えばアーメスですね。サブイベで大好きになりました。特にアホさ加減と尻に敷かれぐあいが。アーエカ(アーマイと表記すべき?)はアビスのフリセシ並みに大好きですー!