「結局ヒスイって何派なの?」
シングと二人部屋の日、
もう後は寝るだけ、と硬いベッドに転がり込んだ俺に
少し離れたシングの声が届く。
真意が掴めなくて気の抜けた声を零しながら横目に見れば、
ベッドに座り丸い目でこっちを見ているシングと目が合った。
「何がだよ?」
「ほら、前にクンツァイトとカルと、犬派か猫派か…ブタザルモドキ?、派かって話してたじゃん。」
ああ、と短い声を上げてそれを回顧する。
あれは正直嫌な思い出だ。
何故そんな事を訊くのか、と問えば、あまり深い意味はないらしい。
まぁいいか、と暫く考え込んで一つ悪戯を思い付いた。
シングにはわからない程度に口元を歪める。
「そうだな…正直里を出るまでは猫くらいしか見たことなかったんだが…」
「あの寒ければ寒いほどテンションの上がる猫?」
「ああ。けど、旅をしてもっと好きなヤツが出来た。」
「なになに?」
好奇心たっぷりに身を乗り出して訊いてくるシングに笑いかけて立ち上がった。
クエスチョンを浮かべている頭に手のひらを落とし、
風呂上がりで湿った髪の毛に指を絡めながら撫で下ろす。
「ヒっ、ヒスイ…?」
「俺は、バカで無鉄砲で純粋で素直なくせに頑固で融通も言うこともきかねぇバカが好きだ。
シングって名前のバカが、な。」
軽く髪を払った額に唇を落とせば間抜けな声がした。
見る見る赤みを増す頬に意地の悪い顔を向ければ、悪戯に気付いたらしくぷっくり膨らんだ。
「バカって三回も言うなよ…。」
「しょうがねぇだろ、本当の事なんだから。」
「そうだけどっ、」
「そこも含めて好きなんだから。」
抱き締めながら言えば、言葉をなくして顔の熱を上げる。
体勢の問題でシングを見ることは叶わないが、なんとなくそう思った。
「………も…。」
「あん?」
ポツリと落とした声が聞き取れなくて体を離そうとしたが、出来ないままに終わった。
シングが背中に手を回して服をギュッと握り締めているのだ。
そして小さく辿々しいが、さっきよりはハッキリと大きな声で繰り返す。
「俺、も…ヒスイが一番、好きっ…!」
「…バーカ。」
一蹴するとシングの手の力が緩み、今度は向こうから離れようとする。
顔を見られたくなかった俺は、水分を含んだ茶色い後ろ頭に手を回し、
風呂のせいだけではない火照りを帯びた体に押し付けた。
「そんなの、一々言わなくても知ってんだよ。」
訪れた沈黙はとてもじゃないが居心地の良いものではなく、
しかしそれは気恥ずかしさからくるもので気まずさは微塵も無い。
そんな中、壁に掛けられた時計の秒針だけがやけに主張しているのだった。
END.
終わり方微妙…。
相互記念でアヤメ様に捧げる「甘々ヒスシン」です!シングが乙女で申し訳ない!
ヒスイは犬と猫、どっちが好きなんでしょうか?
犬だったら「シングが好きだから」とか、猫だったらツンデレラが発動してシングの逆を行きたかったから…とか、そんな理由な気がします。
苦情はアヤメ様のみ受け付けます。こんなのでよかったらお納めくださいませ!