今まで散々辛く当たってきたのに、今更仲良くなろうなんて、
それも、友以上の仲になろうなど烏滸がましい以外の何物でもない。

そう言われたのはどれくらい前の事だろう。
それほど昔の事ではない筈なのだが、まるで最早忘れるには難しいくらい記憶に焼き付いている。

それを言ったのは、クリードだった。
一人でいる時、急に目の前に現れてそれだけを言い残して跡形も無く消えた。
きっと、シングの憎しみの中にずっといたアイツにはわかるのだろう、
俺のした仕打ち、苦しんでいたシングのスピリア、その全てが。
なんでそんな事を言いに来たのかはわからないままだが。
少なからず、アイツも思っているのだろうか、
殺そうとまでしたシングの事を。

そんな事は分からないし、知る方法もない。
ただ分かっている真実は、
俺がシングを苦しめた事、その仕打ちの内容、
それに対してクリードが不快感を抱いている事、
俺が一方的な罪悪感に浸っている事。

お人好しのシングは俺にすら笑いかける。
だから見えないのだ。
アイツの本心が。
偶に見え隠れするふとした表情は今にも壊れそうで、
抱き締めたい衝動に駆られたりもするのだけれど、
アイツに否定される事が、アイツの本心を知る事が怖くて
震える手は未だ伸ばせないまま。



「ヒスイ…?」



掛けられた声にハッと顔を上げた。

シングの大きな瞳が一メートル程離れた場所から射抜いている。



「ヒスイ?」

「ん、何だ?」

「どうしたの?…なんか、元気ないよ?」



心配そうな瞳。
俺には、そんな目で見られる資格は無いのに。

口の端を吊り上げて「んなこたねぇよ。」と笑った。

安心したように少し下げた目尻が俺の罪悪感を刺す。



「なら、よかった。」



なんで、お前はそんな顔出来るんだ。

シングの右手が手袋越しに左頬に触れた。



「ヒスイ、泣きそうな顔。」



何だってんだ、ホント。
情けねぇ。



「…なぁ、シング。」

「ん?」


小さく呼ぶ声にこれまた小さな返事が返ってきた。



「俺を…憎んでも、いいんだからな?」

「………。」



一瞬その顔から全ての色が失せて、直ぐに笑った。

何言ってるんだよ、笑い飛ばされる。
俺は何も反応出来ず、ただ眉根を寄せた。



「…憎まれるべきなのは、俺なんだからさ。」



一瞬だけ静かになる空間に放り出されたシングの本音。

その言葉だけが耳に付いて離れなかった。





自分を憎むアイツのスピリアは、今にも壊れそうな程傷付いている。
俺のがさつな手など、触れれば割れてしまうだろう。
それが怖くて、結局手を伸ばせないまま。

アイツの本心を垣間見る事は出来たのに。
自分で付けた傷を癒せない自分の無力さが、堪らなく憎かった。


そうして俺達は、自分を怨み合うのだ。
いままでも、これからも。




END.

遅くなった上に中途半端!
途中でどうしても続かなくて
とてつもなく難産でした!
書き始めたのっていつだろう…。
1000ヒット御礼(もうなんか物凄く前のなんですが)がこんなに暗くていいのかなぁ、と思いつつ、割と暗い方が需要ありそうなので。
何はともあれ、お読みくださりありがとうございました!