コハクのソーマは、あの日行方不明になったシングの居場所をサンドリオンだと示した。
だから俺達は半ば意地で飛行船を手に入れて、羽くじら…いばらの森に侵入を果たしたのだ。



「コハク、本当にシングはここにいるのか?」

「…うん、間違いないよ。でも、なんでサンドリオンに………?」



歩みを進めながらも、皆の顔には様々な疑問や思惑が浮かんでいる。
雰囲気が、シングが居た頃と比べ物にならないほど悪い。

シングと入れ替わりにパーティに入ったエメラルドを見て目を細める。
視線に気付いたリチアは「何ですか」、と控えめな調子で尋ねた。



「いや…クリードの野郎がシングを閉じ込めた理由に心当たりはないのかと思ってな。」

「………すみません。全く…。」

「そうだよな…」



ここ数日、何故か嫌な予感ばかりがスピリアを掻き立てる。
ソーマリンクが切れていないのだから死んではいないだろうが…
それでも何をされているのかわからない。
早くアイツのところへ。
そう、スピリアばかりが先走って戦闘でヘマをした事もあった。

ふと、唐突に何か青い物が目にも止まらぬスピードで横を通り過ぎた。



「ああっ、クンツァイト!嬉しいよ、わざわざ会いに来てくれるなんて!」

「クロアセラフ…!」



その声に全員が最後尾を歩いていたクンツァイトを振り返る。

その瞬間には、何かバチッと電気の走るような鋭い音が聞こえ、
気付いた時にはクンツァイトはクロアセラフの腕の中で気絶している様だった。



「クンツァイトを放しなさい!」

「嫌だよ。だって、此処に居たらクンツァイトまで壊されてしまうもの。」

「何言って…」

「もうアイツらが来るから、僕は行くよ。バイバイ、"リチア様"?」



皮肉な笑いを残し、クロアセラフは去って行った。
しかし皆の意識が向かうのは、クンツァイトが浚われた事と、クロアセラフが残した言葉の意味。

全員が顔をしかめ、首を傾げていると前方から物音がした。
二つの靴の音だ。



「みんな、来てくれたんだね!」



聞き間違うはずの無い声に顔を上げた。
そこに居たのは。



「シン…グ…!?」

「何で…何で、クリードと手を繋いで笑ってるの?」

「クリードは貴方を殺そうとしたのよ!?」

「じゃあ、なんでみんなは、みんなを…コハクを殺そうとしたリチアと一緒に居るの?
此処に来るまでだって随分仲良さそうだったじゃないか。」



あはは、と快活に笑うのは確かにシングで、それでも俺は得体の知れない物を見る様な目をした。

何がどうなってるのかわからない。
シングは、あんなに冷たい目をするやつだったか?

ふと、先ほど寄りも速い何かが横を通る。
巻き起こった旋風に目を瞑り、もう一度開けたらそこに居た筈のシングが居なかった。



「あぁ…あ、ああぁ…!」



悲痛な呻き声がしてそちらを見る。

信じられなかった。
いや、信じたくなかった。
シングのソーマがリチアの体を貫いている、なんて。



「驚いた?クリードに、身体能力を飛躍的に向上させる思念術をかけて貰ったんだ。」

「リチア!リチア!しっかりして!」



アステリアからずるりと落ちた体にコハクが近寄っていく。
必死に思念術を掛けるが血は止まる事を知らない。

デジャヴした。
いや、確かにあったのだ。
シングと、そしてアイツのジィさんの…。



「リチアは、どうしても許せないんだ。俺の大事な人たちをみんな傷つけ苦しめたから。
みんなは好きだけど…お願い、クリードの為に、」



無邪気に笑う声はそこで一旦途切れた。

次の瞬間、好きだった茶髪で視界はいっぱいになる。



「俺ノ手デ、死ンデ?」



激痛も何も感じないまま、体だけが崩れていく。


最期に聞いたのは仲間達の悲痛な叫びとシングの相変わらず楽しそうな声。
最期に見たのはシングの、泣きそうに笑う顔と苦しそうな色を浮かべた瞳。

頭を撫でてやりたくて伸ばした手は言うことを利かずに空を切る。

ごめんな。
刺されたのは自分だというのに、何故か謝りだい気持ちが満ちた。
それの呟きが言葉として発されたのかはわからない。
滲み行く視界ではシングの顔を見ることも、最早出来なかった。


左胸に刃物の切っ先を感じた気がして目を閉じる。
一思いに殺してくれるのは最後の優しさなのだろうか。

鋭い圧力の沈む感覚がして、そこで俺の意識は途切れた。




END.

ちょ、ちょっとヒスシンぽくなった…すみません。
リクあった「絶望する仲間たち」です。
絶望…してないな…。
ていうか空気なキャラが多すぎる…orz
でも楽しく書けたので(おまっ)自分としては満足してます。