海に投げ出された俺を助けたのは、俺を刺した筈のクリードだった。
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「クリード、もう直ぐあいつらが来るよ。」
リンクしたソーマを通してコハク達を感じ取った。
笑って振り向けば、そこに居たクリードが優しく抱き締めてくれる。
「わかった。お前は奥に行ってろ。あいつらの死ぬ所は見たくないだろう?」
クリードの体を押して首を左右に振る。
そして背伸びをすると小さく口付けた。
「クリード、俺はお前の役に立ちたいんだ。だから俺にやらせて?」
「…出来るのか?」
「当然だろ!…俺には、クリードしか居ないんだから。」
そう。クリードしか、居ないんだ。
スピリアの中で後悔していた俺を、
あのまま死んでしまいたかったと思った俺を、
なんでもっと早く殺さなかったんだと思った俺を、
クリードは優しく抱き上げて「必要だ」と囁いてくれた。
あの時は母さんとジィちゃんが俺を殺さなかった事を憎んだけれど、
今はとても感謝してる。
だって、俺が死んだらクリードまで死んでしまっていたんだもの。
首に腕を回して抱き付いていたら、クリードが頭を撫でてくれた。
冷たいけれど、優しくて大きい手。
そういえば、「手が冷たい人は心が温かい」と昔誰かが言ってた。
あの言葉は本当だったんだ、と一人納得する。
「よかろう。ただし、私も近くで見ているぞ。」
「信用無いなぁ…。」
「万が一、お前が傷付いては困るからな。お前が危機に陥ったら私がやつらを八つ裂きにしてやる。」
「うん!…繋がったソーマから信頼を感じるから、あいつらに俺は殺せないと思うけどね。」
俺の呟きにクリードの眉が寄った。
首を傾げて不機嫌そうな顔を見詰める。
「…どうしたの?」
「…やはり、私がやろう。リンク諸ともソーマを壊してやる。」
「急に何?」
「嫉妬してるんだよ。」
俺の問いに答えたのはクリードじゃなかった。
顔だけ後ろに向ければ面白そうな顔をしたクロアセラフ。
小さな舌打ちが聞こえて視線をクリードに戻した。
「何故貴様がここに居る、クロアセラフ?」
「あいつらを殺すんだろ?僕のクンツァイトを壊されちゃ困るからね。」
「…勝手にしろ。」
クロアセラフは含み笑いをすると行ってしまった。
クリードは苦々しい顔をしている。
「…嫉妬、してくれてるの?」
小首を傾げれば、クリードは恥ずかしそうに頷いた。
嬉しくて、腕に力を込めてクリードを引き寄せるとその頬に唇を押し付ける。
クスッと笑って目を細めた。
ゆっくり離れるとその広い胸に額を密着させる。
「それなら尚更、俺がやんなきゃ。」
「何故だ?」
「クリードが妬いてくれたのは嬉しいけどさ、やっぱクリードが不快に思う物はこの手で葬りたいんだ。」
「………そうか…なら、任せるぞ。」
目と目を合わせて、
指と指を絡ませる。
口と口を重ねて、
どちらからともなく笑いあった。
「行こう、クリード。」
「ああ。」
新しい明日、新しい関係の為に
今までを破壊しに行く。
なんて素敵な創造だろう、と小さく呟いて
闇の彼方に消えて行った。
END.
リク頂きました「シング裏切りのクリシン」。
エンドと言いつつ続きます。
次はヒスイ視点で絶望する仲間のターン!